TMS治療は認知症も改善できる?治療効果やうつ病で見られる仮性認知症について解説
TMS治療(経頭蓋磁気刺激法)は、磁気による刺激で脳の神経回路の活動を調整する非侵襲的な治療法です。
もともとは治療抵抗性うつ病に対する治療法として導入され、一定の条件を満たすうつ病に対しては、日本でも保険適用となる治療法ですが 、軽度認知障害(MCI)や認知症への応用については、一部の研究で検討されたにとどまっており、十分な科学的根拠(エビデンス)は確立されていません。
現在のところ、TMSが認知症そのものに対して効果的な治療法であるとは医学的に評価されておらず、臨床的にも推奨されていません。
この記事では、TMS治療と認知症の関係について、最新の研究動向を踏まえながら、科学的根拠に基づいて正確に解説します。
また、うつ病によって認知症に似た症状が現れる「仮性認知症」にも触れながら、軽度認知障害(MCI)の進行リスクを下げる ための生活習慣、TMS治療に関するよくある質問などもわかりやすく紹介します。
認知症とは
認知症とは、脳の病気や障害により、記憶力・判断力・理解力などの認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす状態を指します。
高齢になるほど発症リスクが高まり、日本では高齢者人口の増加に伴って、今後もしばらくは認知症の患者数が増加すると見込まれています。
認知症にはさまざまな原因やタイプがあり、現れる症状にも幅があります。
次の章では、認知症の代表的な症状と分類、それぞれの特徴について詳しく解説します。
認知症の主な症状
認知症の症状は、大きく分けて「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD: Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)」の2種類があります。
それぞれの特徴を理解することで、早期の気づきや適切な対応につながります。
- 中核症状
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- もの忘れ(記憶障害)
- 時間や場所がわからなくなる(見当識障害)
- 理解力や判断力の低下
- 仕事・家事・趣味・身の回りのことができなくなる
- 行動・心理症状(BPSD)
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- 一人になると不安・恐怖を感じる
- 憂うつ・無気力になる
- 興味や関心が薄れる(意欲低下)
- 怒りっぽくなる(易怒性)
- 幻視や妄想(例:もの盗られ妄想)
中核症状は、脳の神経細胞の変性や損傷により直接引き起こされる、認知機能の基本的な低下を指します。たとえば、「同じ話を何度も繰り返す」「お金の管理ができなくなる」など、日常生活に明らかな支障が生じるのが特徴です。
一方、行動・心理症状(BPSD)は、本人の性格や生活環境、身体的・心理的なストレスなど、さまざまな要因によって現れる二次的な症状です。進行に伴って現れやすく、介護者や家族にとって大きな負担となる場合があります。
なお、認知症の症状や進行のスピードには個人差があるため、「何かおかしい」と感じた段階で、できるだけ早く医療機関に相談することが大切です。
認知症の分類 – 代表的な4つのタイプと特徴
認知症は、原因となる疾患に応じていくつかのタイプに分類されます。中でも「4大認知症」と呼ばれる代表的な4つのタイプは、発症頻度が高く、診断や治療方針を考えるうえでも重要です。
各タイプによって初期症状や進行のしかたが異なるため、できるだけ早い段階での見極めと対応が求められます。
- アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病:Alzheimer's disease/AD)
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最も患者数が多いタイプで、認知症全体の約60〜70%を占めると推定されています。
脳内にアミロイドβやタウタンパクといった異常タンパク質が蓄積し、神経細胞が徐々に障害されていくことが原因です。
初期には、「同じ話を何度も繰り返す」「物の置き場所を忘れる」といったエピソード記憶の障害が目立ち、徐々に日常生活に支障が出てきます。進行はゆっくりですが、持続的であるのが特徴です。
- 血管性認知症
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脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって発症するタイプで、日本では2番目に多い認知症です。
症状はダメージを受けた脳の部位に依存し、「できる」「できない」が急に切り替わる階段状の進行が見られます。
記憶障害よりも、注意力や実行機能(段取りや判断力)の低下、感情のコントロールの難しさが目立つケースが多く、再発や基礎疾患(高血圧・糖尿病など)の管理も重要です。
- レビー小体型認知症
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レビー小体という異常タンパク質が脳に蓄積することで発症します。
幻視やパーキンソン症状(手足のふるえ、動作の遅さ)、自律神経の不調(起立性低血圧、便秘など)が現れるのが特徴です。
日内変動や注意力の揺らぎがあり、状態が安定しづらいため、家族や介護者の負担も大きくなりやすい傾向があります。
- 前頭側頭型認知症(ピック病など:Frontotemporal Dementia/FTD)
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前頭葉や側頭葉が萎縮することで発症します。
初期には記憶障害が目立たず、代わりに人格の変化(怒りっぽい、無関心)、反社会的な行動、衝動性、言語の理解や表現の障害が出現します。
比較的若年(40〜60代)で発症することが多く、家庭や仕事でのトラブルをきっかけに気づかれることがあります。進行は比較的早く、支援体制の整備が早期から求められます。
軽度認知障害(MCI)とは
軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)とは、加齢による物忘れと認知症の間に位置する認知機能の軽度な低下状態を指します。
主な症状としては、「最近の出来事を思い出しにくい」「言葉がすぐに出てこない」など、記憶力や注意力の衰えが自覚される一方で、日常生活の基本的な動作や社会生活はほぼ自立して行えるのが特徴です。
MCIは医学的に「病気」ではなく、あくまで認知症の前段階にあたる“状態”とされています。ただし、軽度認知障害(MCI)の方の一部は認知症へ進行する ことが報告されており、早期発見と適切な対応が極めて重要です。
この段階で生活習慣を整えたり、認知機能に刺激を与える活動を取り入れたりすることで、症状の進行を緩やかにする、あるいは安定した状態を維持する可能性があると考えられています。
軽度認知障害(MCI)の進行リスクを下げるための生活習慣と認知トレーニング
軽度認知障害(MCI)の進行リスクを下げ 、認知機能をできる限り長く保つためには、以下の3つの取り組みが重要です。
- 余暇活動を増やす
- 認知リハビリテーションに取り組む
- 生活習慣を改善する
ここでは、それぞれのポイントについて詳しく解説します。
余暇活動を増やす
軽度認知障害(MCI)の段階では、余暇活動の充実が認知機能の維持や進行リスクの低減に役立つ可能性があります。特に、社会的な交流や知的な刺激を伴う活動は重要です。
たとえば、以下のような活動が推奨されます:
- 読書、音楽鑑賞、美術館巡りなどの知的活動
- スポーツ、散歩、ダンスなどの身体活動
- 習い事、ボランティア、地域イベントやサークル活動への参加
これらの活動は、前頭葉や海馬といった認知機能に関わる脳領域を刺激する可能性があるとされており、記憶力や注意力の維持に寄与すると考えられています。
特に、他者とのコミュニケーションを伴う活動は、孤立感や抑うつを防ぎ、社会的ネットワークの維持にもつながる点で極めて重要です。
海外の疫学研究(Fratiglioni et al., 2000)および、東京都健康長寿医療センター研究所の調査においても、社会的関わりが豊かな高齢者は認知症の発症リスクが低いことが繰り返し示されています。
また、新しいことに挑戦する経験(例:新しい趣味、旅行先の開拓)は、脳に新たな神経接続を促す「認知予備能(cognitive reserve)」を高める可能性があると指摘されています。
日常の中に楽しく続けられる余暇活動を取り入れることは、軽度認知障害(MCI)の進行リスクを下げるうえで、取り組みやすい方法のひとつです。
認知リハビリテーションに取り組む
認知リハビリテーションとは、記憶力・注意力・実行機能・判断力などの認知能力を、トレーニングによって維持・向上させるための取り組みです。特に、身体活動と認知課題を組み合わせた訓練は、より効果的であると示唆されています。
代表的な例が、国立長寿医療研究センターが開発した「コグニサイズ」です。これは、有酸素運動(例:歩行、体操)と、「しりとり」「暗算」などの認知課題を同時に行うプログラムで、脳と身体を同時に刺激することで神経回路を活性化させることを目的としています。
また、以下のような知的活動も、脳の認知機能の活性化に有効とされます:
- 数独やクロスワードパズル
- 脳トレ系アプリ(記憶ゲームや反応速度トレーニングなど)
- 計算ドリルや日記など、思考を要する日常作業
こうした取り組みは、継続することが最も重要です。自分に合った方法で「楽しみながら続けられる工夫」を取り入れることで、認知機能の安定につながると考えられています。
生活習慣を改善する
軽度認知障害(MCI)の進行リスクを下げるには 、日々の生活習慣の見直しが極めて重要です。 特に、認知機能の低下と深く関係する生活習慣病や栄養・運動・睡眠・ストレス管理に対するアプローチが有効とされています。
食生活の改善
地中海式食事(Mediterranean Diet)は、野菜、果物、魚介類、ナッツ類、全粒穀物、オリーブオイルなどを豊富に含む食事パターンであり、アルツハイマー型認知症や軽度認知障害(MCI)の発症リスクを低下させる可能性があると多くの研究で報告されています(Scarmeas et al., 2006/Singh et al., 2014)。
この食事は、脳内の慢性的な炎症を抑える「抗炎症作用」や、酸化ストレスの軽減、脳血管機能の改善などを通じて、神経変性の進行を抑えることが期待されています。
なお、かつては「適量の赤ワイン」もこの食事に含まれるとされていましたが、現在では健康に安全な飲酒量は存在しないという見解が主流となっており、アルコールの摂取は慎重に考える必要があります(Lancet, 2018)。
特定の食品に偏るのではなく、栄養バランスの取れた抗炎症性の高い食生活を長期的に継続することが、認知機能の維持と将来的なリスク低減につながります。
運動習慣の確立
中等度の有酸素運動(ウォーキング、水中歩行、インターバル速歩など)を週に2〜3回以上行うことは、脳血流の改善や神経可塑性の促進を通じて、記憶力・注意力の維持に有効であると報告されています(Blondell et al., 2014)。
さらに、筋力トレーニングやバランス運動を組み合わせることで、転倒リスクの低減や身体機能の維持にもつながり、より包括的な健康効果が期待されます。
生活習慣病の予防・管理
高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病は、脳血管の障害や全身性の慢性炎症を介して認知機能低下のリスクを高める要因とされています。
これらの疾患を早期に発見・管理し、安定させることは、軽度認知障害(MCI)の進行予防における中核的対策です。
その他の健康習慣
禁煙:喫煙は酸化ストレスと動脈硬化を促進し、脳血流を低下させるため、禁煙の早期実施が強く推奨されます。
質の高い睡眠:慢性的な睡眠不足は認知機能障害と関連が深く、1日7時間前後の十分な睡眠の確保が理想とされます。
ストレス管理:慢性的なストレスは、ストレスホルモンであるコルチゾールの持続的な上昇を引き起こし、記憶に関与する海馬などの脳領域に悪影響を及ぼす可能性があると報告されています。特に高齢者では、コルチゾールの過剰が海馬の体積減少や記憶力低下と関連することを示した研究があります(Lupien et al., 1998)。
マインドフルネス瞑想や趣味活動、社会的交流など、ストレスを軽減する行動習慣は、情動の安定、不安・抑うつの軽減に有効とされており、継続的な実践が認知機能の維持に貢献する可能性も示唆されています。
こうした生活習慣は、精神的な健やかさを保つうえでも重要な柱となります。
このように、科学的根拠に基づいた生活習慣の改善は、軽度認知障害(MCI)の進行を抑えるうえで極めて重要です。
日々の習慣を意識して整えることが、将来の認知症リスクの低減や、自立した生活の維持につながります。「気づいたその日が予防のスタートライン」です。
仮性認知症とは【うつ病による“認知症に似た症状”に注意】
仮性認知症(うつ病性仮性認知症、Depressive Pseudodementia)とは、特に高齢者に多く見られる、うつ病が原因で一時的に認知症のような症状が現れる状態を指します。症状は一見、アルツハイマー型認知症などと似ており、「もの忘れ」や「集中力の低下」「無気力」などが目立ちますが、本質的には認知症とは異なり、原因となるうつ病を適切に治療することで改善が期待できる場合があります。
うつ病では、思考のペースが遅くなる、考えがまとまりにくい、 集中力が続かないといった“思考制止”の影響により、新しい情報を記憶する力(記銘力)が一時的に低下したように見えることがあります。
このため、本人が「覚えられない」「忘れてしまう」と強く感じるほか、周囲や医師が初期の認知症と誤って判断するケースも少なくありません。
▶️ ポイントまとめ
- 仮性認知症はうつ病が根本原因
- 認知症とは異なり、うつ病の治療によって改善が期待できる場合がある
- 誤診を避けるために、早期の見極めと専門医の正確な診断が極めて重要
この章では、仮性認知症の具体的な症状、認知症との違い、治療法や回復の見通しについて、医学的根拠に基づいてわかりやすく解説していきます。
仮性認知症の症状と認知症との違い【“見逃し”を防ぐ重要ポイント】
仮性認知症(うつ病性仮性認知症、Depressive Pseudodementia)では、以下のようなうつ病に伴う認知機能の低下や精神的症状がみられます 。
- もの忘れやうっかりミスの増加
- 記憶力・集中力・判断力の低下
- 意欲の著しい低下(無気力・無関心)
- 引きこもり傾向、外出の減少
- 強い不安感や抑うつ状態(うつ症状)
- 入眠困難、中途覚醒、熟睡感の欠如などの睡眠障害
- 食欲低下や体重減少
これらは認知症の初期症状と類似しており、特に高齢者では「認知症かも」と誤診されやすい点が大きな課題です。
しかし、医学的には以下のような違いが確認されており、正確な鑑別が不可欠です。
🔍 仮性認知症と認知症の医学的な違い
| 仮性認知症 | 認知症 | |
| 気分の落ち込み | 強く見られる | 前景に立たないこともある |
| 症状の自覚 | あり(深刻に受け止める ) | 自覚に乏しいことがある |
| 進行スピード | 比較的急速に発症・悪化することがある | 半年〜年単位で 徐々に進行 |
| 抗うつ薬の効果 | 治療が奏功し、改善がみられることがある | 認知症そのものには効果がない |
✅ ポイント解説
- 気分の落ち込みや意欲の低下といった“抑うつ症状”が目立つ場合、仮性認知症の可能性が高まります。
- 症状に対する“自覚の有無”は重要な鑑別ポイントです。仮性認知症では「もの忘れが気になる」と自分で訴えるケースが多く見られます。
- 進行スピードの違いも明確で、認知症は半年〜数年単位でゆっくり進行する一方、仮性認知症は数週間〜数ヶ月で比較的急速に悪化することがあります。
- 抗うつ薬などへの治療反応が良好であれば、仮性認知症の可能性を強く示唆します。
▶️ このような特徴を正しく理解することで、仮性認知症と認知症を混同するリスクを減らし、適切な診断と治療に早くつなげることができます。
仮性認知症の治療法と回復の目安
仮性認知症(うつ病性仮性認知症、Depressive Pseudodementia)は、うつ病によって認知症に似た症状が現れている状態です。そのため、治療では原因となっているうつ病への対応が中心となります。
主な治療法には、抗うつ薬による薬物療法、精神療法・カウンセリング、生活リズムの調整、睡眠の改善、家族によるサポートなどがあります。もの忘れや集中力の低下だけを見るのではなく、気分の落ち込み、意欲低下、思考制止(考えがまとまりにくい、頭が働きにくい感じ )、睡眠障害、食欲低下、不安感などを含めて総合的に治療していくことが大切です。
薬物療法では、SSRIやSNRIなどの抗うつ薬が使われることがあります。ただし、高齢者では薬の副作用が出やすく、ふらつきや眠気による転倒、吐き気や食欲低下などに注意が必要です。そのため、薬は少量から慎重に開始し、体調や併用薬を確認しながら調整します。
精神療法やカウンセリングでは、「何もできない」「覚えられない」といった自己否定的な考え方の偏りに気づき、少しずつ修正していくことを目指します。また、昼夜逆転を防ぐ、朝に光を浴びる、無理のない範囲で外出する、人との交流を保つなど、生活リズムを整えることも回復を支える重要な要素です。
回復までの期間には個人差がありますが、うつ病の治療がうまく進むと、数週間から数か月かけて抑うつ気分や意欲の低下が改善し、それに伴って注意力や集中力、記憶力なども改善することがあります。 ただし、こうした認知症に似た症状の回復は、気分症状の改善より遅れて現れることもあるため、焦らず経過を見ることが大切です。
一方で、うつ病の治療を行っても、もの忘れや判断力低下などの認知症に似た症状が十分に改善しない場合や、経過の中で認知症の併存が明らかになる場合もあります。そのため、治療開始後も定期的に認知機能を評価し、仮性認知症としての経過でよいのか、認知症が併存していないか、その後の経過で認知症が明らかにならないかを確認することが重要です。
また、うつ病は再発しやすい病気です。症状がよくなったあとも、自己判断で治療を中断せず、主治医と相談しながら再発予防のための治療を一定期間続ける必要があります。状態が安定すれば、医師の判断のもとで少しずつ減薬や治療終了を検討できる場合もありますが、再発を繰り返している方は、より長い期間の治療継続が必要になることもあります。
仮性認知症にTMS治療は有効?うつ病治療としての位置づけ
仮性認知症(うつ病性仮性認知症)は、うつ病によって認知症に似た症状が現れている状態です。そのため、治療では原因となっているうつ病を改善することが重要になります。
TMS治療(経頭蓋磁気刺激法)は、頭部に磁気刺激を与えることで、脳の神経活動を調整する治療法です。うつ病に対しては、主に前頭前野などの脳領域を刺激し、気分の落ち込み、意欲低下、思考制止(考えがまとまりにくい、頭が働きにくい状態)などの改善を目指します。
仮性認知症の場合、背景にあるのは認知症そのものではなく、うつ病による思考制止や集中力低下、意欲低下です。そのため、TMS治療によってうつ症状が改善すれば、「覚えられない」「忘れっぽい」「頭が働きにくい 」「集中できない」「意欲がわかない」といった認知症に似た症状も軽くなる可能性があります。
ただし、TMS治療はすべてのうつ病に必ず効果がある治療ではありません。治療効果には個人差があり、うつ病の重症度、これまでの治療歴、併存疾患、服薬状況などを総合的に見て、適応を判断する必要があります。
また、TMS治療は薬を使わない治療であり、薬物療法と比べて全身性の副作用が比較的少ない点が特徴です。一方で、治療中に頭皮の違和感、頭痛、刺激部位の痛みなどが出ることがあり、非常にまれですが、けいれん発作などのリスクも報告されています。てんかんの既往がある方、頭蓋内金属や人工内耳など、TMS治療に影響する金属・医療機器がある方 、ペースメーカーなどの医療用電子機器が体内にある方では、治療の適応に注意が必要です。
仮性認知症に対してTMS治療を検討する場合は、「認知症を直接治す治療」としてではなく、「うつ病を改善し、その結果として認知症に似た症状の改善を目指す治療」と理解することが大切です。治療を希望する場合は、精神科医の診察を受け、TMS治療の適応があるかどうかを慎重に確認しましょう。
認知症とTMS治療に関するよくある質問
認知症や仮性認知症、TMS治療については、「認知症そのものにTMS治療は効くのか」「健康な人の認知機能向上にも使えるのか」「高齢でも受けられるのか」といった疑問を持つ方が少なくありません。
ここでは、TMS治療と認知症に関するよくある質問について、医学的根拠に基づいてわかりやすく解説します。
認知症にTMS治療は効く?現時点のエビデンス
現時点では、TMS治療(経頭蓋磁気刺激法)が、アルツハイマー型認知症などの認知症そのものに対する標準治療として確立しているわけではありません。
軽度認知障害(MCI)やアルツハイマー型認知症に対してTMS治療を行った研究はあり、一部では認知機能検査の点数が改善したとする報告もあります。しかし、これらの研究は症例数が少ないものも多く、刺激する脳の部位、刺激回数、治療期間、認知トレーニングを併用するかどうかなどが研究によって異なります。
そのため、現時点で「TMS治療によって認知症そのものが改善する」「TMS治療で認知症を予防できる」と断定することはできません。認知症に対するTMS治療は、あくまで研究段階の治療と考えるのが適切です。
一方で、TMS治療はうつ病に対する治療法としてはエビデンスが蓄積されています。そのため、認知症そのものではなく、うつ病によって認知症に似た症状が現れる「仮性認知症」の場合には、うつ病治療の選択肢としてTMS治療が検討されることがあります。
つまり、TMS治療は「認知症を直接治す治療」としてではなく、「うつ病を改善し、その結果として認知症に似た症状の改善を目指す治療」として理解することが大切です。
TMS治療は認知機能を高める?健常者にも効果はある?
健康な人の記憶力や集中力を高める目的でTMS治療を行うことは、現時点では一般的な医療として推奨されていません。
健常者を対象にした研究では、TMSによって実行機能や反応時間などに小さな変化がみられたとする報告があります。しかし、その効果は限定的で、研究ごとのばらつきも大きく、どの部位をどの条件で刺激すれば安定した効果が得られるのかは十分に確立していません。
そのため、「健康な人が記憶力アップや仕事・勉強のパフォーマンス向上を目的にTMS治療を受ける」という使い方は、医療として標準的にすすめられる段階ではありません。
TMS治療は、あくまで医学的な診断と適応判断に基づいて行う治療であり、単なる能力向上や脳のパフォーマンスアップを目的とした使用については、過度な期待を持たないことが大切です。
高齢者でもTMS治療は受けられる?年齢と効果の関係
年齢だけで、TMS治療を受けられるかどうかが決まるわけではありません。高齢の方でも、うつ病の治療としてTMS治療が選択肢になることはあります。
TMS治療は、うつ病に関係する脳の神経活動を調整することで、気分の落ち込み、意欲低下、思考制止(頭の回転が鈍く、考えがまとまりにくい状態)などの改善を目指す治療法です。高齢者のうつ病に対しても、TMS治療によって症状の改善がみられることがあります。
一方で、高齢の方では若い方と比べて、脳の萎縮、脳血管障害、身体疾患、服薬内容、認知機能の状態など、治療反応に影響しうる要因が多くなります。そのため、「高齢だからTMS治療は効かない」とは言えませんが、「年齢に関係なく同じ効果が期待できる」とも言い切れません。
実際の治療効果は、うつ病の重症度、これまでの治療歴、発症からの期間、身体疾患や服薬状況などによって個人差があります。そのため、高齢者でも改善が期待できる場合はありますが、治療を行うかどうかは一人ひとりの状態に合わせて判断する必要があります。
また、TMS治療は薬を使わない治療であるため、薬物相互作用が問題になりにくい点は、高齢者にとって検討しやすい特徴の一つです。複数の薬を服用している方や、抗うつ薬の副作用が心配な方では、治療選択肢の一つとして検討されることがあります。
高齢の方でTMS治療を検討する場合は、年齢だけで判断するのではなく、診断、治療歴、身体状態、安全性、治療を継続できるかどうかなどを総合的に確認することが大切です。
まとめ
TMS治療は、うつ病に対する治療法としてエビデンスが蓄積されている一方で、認知症そのものに対する標準治療としては、現時点では確立していません。
軽度認知障害(MCI)やアルツハイマー型認知症に対する研究は行われていますが、症例数や研究方法にばらつきがあり、認知症の改善や予防を目的として一般的にすすめられる段階ではありません。
一方で、うつ病によって認知症に似た症状が現れる仮性認知症では、原因となるうつ病を適切に治療することで、もの忘れ、集中力低下、頭が働きにくい感じなどが改善する可能性があります。TMS治療は、うつ病治療の選択肢の一つとして検討されることがあります。
大切なのは、「もの忘れ=すぐに認知症」と決めつけないことです。気分の落ち込み、意欲低下、不眠、不安、思考制止などを伴う場合には、うつ病による仮性認知症が隠れていることもあります。
認知症なのか、うつ病による仮性認知症なのかを見極めるためには、専門医による診察と評価が欠かせません。もの忘れや集中力低下が気になる方は、早めに医療機関で相談し、適切な診断と治療につなげることが大切です。
金山こころとねむりのクリニックでは、もの忘れや集中力低下が認知症によるものか、うつ病による仮性認知症なのかを丁寧に見極めたうえで、うつ病による仮性認知症が疑われる場合には、必要に応じてTMS治療を含む治療選択肢をご提案しています。
うつ病によって認知症のような症状が生じている可能性がある方、新しい治療の選択肢について知りたい方は、一度ご相談ください。
記事監修者
金山こころとねむりのクリニック 院長
- 主な専門領域
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うつ病、睡眠障害、TMS治療
- 経歴
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- 東北大学医学部医学科卒業。
- 東京都立松沢病院精神科勤務。
- 精神科クリニック勤務を経て金山こころとねむりのクリニック開院
- 資格・所属学会
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- 精神保健指定医
- 精神科専門医(日本専門医機構認定)
- 日本精神神経学会
- 日本睡眠学会
- 日本頭痛学会



