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睡眠時無呼吸症候群

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA:obstructive sleep apnea)、いわゆる“睡眠時無呼吸症候群”は、睡眠中に咽頭など上気道が繰り返し閉塞することで呼吸が止まったり(無呼吸)、呼吸が低下したり(低呼吸)する疾患です。その結果、一晩に何度も酸素低下と微小覚醒(睡眠の中断)が生じ、睡眠の質が著しく損なわれます。典型的な症状は「大きないびき」「睡眠中の無呼吸の指摘」「日中の強い眠気」であり、睡眠が分断されることで熟睡感の欠如や疲労感を招きます。閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は心血管の健康、メンタルヘルス、生活の質、自動車など危険を伴う機器の使用にも大きな影響を及ぼす重要な疾患です。閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は閉塞性の無呼吸を特徴とし、中枢性睡眠時無呼吸(脳の呼吸中枢からの信号低下で起こる無呼吸)とは異なります。

1. 疫学・危険因子

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は最も頻度の高い睡眠関連呼吸障害であり、中等度以上の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を有する人は成人男性で約20%、閉経後女性で約10%にのぼると報告されています。肥満や高血圧、糖尿病など生活習慣病を持つ人ではさらに有病率が高く、肥満が最大の要因です。近年の大規模解析では、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は全世界で約10億人(30~69歳の成人の約26%)に影響し、そのうち約4億人を超える人が中等度~重度に該当すると推定されました。放置された閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は高血圧や心疾患、交通事故など様々なリスクを高めるため、その早期診断と治療は重要な課題です。日本においても、有病率は同程度かそれ以上と考えられています。例えば国内疫学研究では、30~40歳代で男性約10%、女性約5%に閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)がみられ、50歳代では男性10~20%、女性10%弱、70歳以上では男性20%超、女性10%超と報告されています。閉経後の女性はホルモン変化などにより有病率が男性に近づくことが知られます。
危険因子(リスク因子)として最も重要なのは肥満です。BMIが高いほど閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)のリスクは増大し、特に首周りの脂肪沈着が睡眠中の気道閉塞を起こしやすくします。実際、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者の多くは肥満傾向にあり、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の有病率上昇は肥満者の増加と強く関連します。その他の危険因子としては、男性(女性より咽頭周囲の脂肪が多いため)、高齢(加齢で舌や軟口蓋の筋緊張が低下)、遺伝的要因(顎顔面の形態や肥満傾向の遺伝)が挙げられます。頭蓋顔面の解剖学的形態も重要で、下顎後退や狭い咽頭、扁桃肥大、舌が大きいなどは閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)発症のリスクです。アジア人は顎が小さく、口内のスペースが狭く、前後の奥行きがない顔面の骨格をしているため、肥満でなかったとしても上気道が閉塞しやすいです。また、アルコールや一部の睡眠薬の服用は筋肉の緩みによって気道閉塞を悪化させます。さらに仰臥位(仰向け)での睡眠も舌根が喉に落ち込み無呼吸が増える原因となります。喫煙や慢性的な鼻づまりも閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)のリスクを多少高めます。

2. 発症のメカニズム

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)では、睡眠時に咽頭を取り巻く筋肉の緊張が低下し、吸気時の陰圧で気道が内側に引き込まれて閉塞します。特に仰臥位(仰向け)で眠ると舌や軟口蓋が重力で下がり、上気道が塞がりやすくなります。肥満による咽頭周囲の脂肪沈着や、扁桃・舌の肥大、顎の小ささなど解剖学的要因があると、気道が物理的に狭く「折れ曲がりやすいホース」のような状態になり、睡眠中に容易に閉塞します。閉塞が起きると呼吸努力は続くものの空気が流れず、血中酸素が低下し、二酸化炭素が上昇します。一定時間経つと脳が危機を察知して一瞬覚醒し、筋緊張が回復して気道が開通します。すると再び呼吸が再開され、酸素が回復しますが、再入眠するとまた筋緊張低下→閉塞が起こり…というサイクルが一晩中繰り返されます。このため睡眠が断続的に中断され、深い睡眠が維持できなくなります。

3. 主な症状

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の症状は睡眠中のものと日中のものに大別できます。患者本人が自覚しやすいのは日中の症状ですが、家族や同室者から夜間の様子を指摘されることで気づくケースも多くあります。

睡眠中の症状

いびき、呼吸停止、あえぎ呼吸

いびきは呼吸に際して生じる気流によって発生する音です。ほぼ全例でいびきがみられ、その音は「壁の向こうでも聞こえるほど大きい」「途中でピタッと止まってしばらくしてまた大きくなる」と表現されます。無呼吸中は呼吸音が消失し、再開時に「ガッ、ガーッ」と喘ぐような息継ぎ音やむせる様子が観察されます。寝汗をかいたり、むずがるように寝相が悪いこともあります。

夜間頻尿

夜中に何度もトイレに起きるということも閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の患者さんに多く見られます。気道閉塞に対抗しようとして胸腔内が高度の陰圧状態になり、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP:atrial natriuretic peptides)が分泌されます。心房性ナトリウム利尿ペプチドはその名の通り利尿作用があるため夜間頻尿がみられるようになるのです。

不眠

呼吸イベントに伴い、覚醒反応が繰り返されると、睡眠が分断されてしまいます。また呼吸イベントが生じると交感神経が活性化され、その結果としても睡眠が分断しやすくなります。このように中途覚醒が繰り返されるため不眠の症状を訴える患者さんもいます。さらに不眠症と診断されて、睡眠薬を飲んでいる患者さんが混ざっています。睡眠薬の種類によっては筋弛緩作用があるため上気道が虚脱してしまい、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の症状を悪化させてしまうこともあるため注意が必要です。

日中の症状

頭痛

朝起きたときに頭痛がすることもよくあります。これは夜間の低酸素血症や高炭酸ガス血症が関わっているといわれています。

眠気

最も多いのは過度の眠気(EDS:excessive daytime sleepiness)です。本人は十分に睡眠時間をとっているつもりでも、夜間に何度も無呼吸による覚醒が起きているため慢性的な睡眠不足状態となり、朝起きても疲労感・倦怠感が抜けません。日中に強い眠気に襲われ、会議中や運転中につい居眠りしてしまうこともあります。この居眠りは閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の大きな危険性であり、運転や機械操作中の居眠りは重大事故につながり得ます。

したがって、眠気を客観的に評価することが重要になります。その際に役立つツールの一つがエプワース眠気尺度(ESS:epworth sleepiness scale)です。合計11点以上の場合過度の眠気(EDS)があると判定されます。

4. 合併症

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を治療せず放置すると、様々な心身の合併症リスクが高まります。その代表格が心血管系への悪影響です。

高血圧

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者に高血圧が合併することが多く、特に夜間血圧非下降型(夜間に十分血圧が下がらない)や治療抵抗性高血圧が多いことが知られています。反対に、高血圧患者の中には閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)が潜んでいる割合が高く、ある報告では難治性高血圧患者の80%近くに閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)が認められたとも言われます。閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)による夜間低酸素と覚醒反応は交感神経を活性化し血管を収縮させるため、慢性的な高血圧の一因となります。

心疾患・脳卒中

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)や脳卒中の独立した危険因子である可能性が示唆されています。大規模疫学研究で、重症の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者は同年齢の非閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者に比べて心血管死亡リスクや脳卒中発症リスクが有意に高いとの報告があります。未治療閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)では10年間の致死的心血管イベント発生率が明らかに上昇するとの報告もあり、長期間の放置は命に関わる可能性があります。

心房細動

心房細動患者の2~7割に閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)が合併するという報告があります。無呼吸・低呼吸時の呼吸努力が心房への負荷になってしまうことや、交感神経の亢進も心房細動を発症する背景になると考えられます。

糖尿病

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は糖尿病やメタボリックシンドロームとも関連します。慢性的な睡眠不足と交感神経刺激によりインスリン抵抗性が高まり、血糖コントロールが悪化します。閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者では糖尿病有病率が高いとのデータがあります。閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の40%がやがて糖尿病になり、糖尿病患者の23%が閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)であったという研究結果もあり注意が必要です。

うつ病

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)とうつ病は、一見別個の疾患に思えますが、実は症状の類似と高い併存率、そして双方向の関連があることが数多くの研究で示されています。

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)とうつ病の共通症状

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)もうつ病も、「倦怠感」「意欲低下」「集中力の低下」「記憶力の低下」「朝の頭痛や爽快感の欠如」「気分の落ち込み」といった症状を呈することがあります。閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者は夜間睡眠の乱れから疲労感や抑うつ気分を訴えることがあり、これがうつ病の抑うつ症状と非常によく似ています。実際、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)が見逃され、うつ病の診断で精神科に通院していたというケースも少なくありません。うつ病に対する治療を行っても改善しない場合、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の可能性を評価をすべきと考えられます。また両疾患は睡眠の維持に困難をきたす点でも共通しています。閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者の中には不眠症状(夜中に何度も目が覚める)を主訴にする人もおり、それもうつ病の不眠と区別しにくいことがあります。このように症状がオーバーラップするため、OSAとうつ病の鑑別は難しい場合があります。

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)とうつ病の併存

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)とうつ病は併存することも多々あります。ある研究によれば、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者の17%程度が臨床的な抑うつ状態にあるとの報告があります。一方、うつ病患者側から見ると、うつ病患者の10~20%前後に閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)が潜在しているとの調査があります。例えばある研究では、うつ病患者703名に睡眠時の精密検査(PSG)を行ったところ14%に閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)が確認されました。さらにその中で日中の過度な眠気(EDS)を訴える人は全体の50%に上りました。つまり「うつ病+過度な眠気(EDS)」の背後には閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)が隠れている可能性があるということです。一方閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と過度の眠気(EDS)が両方ある群は、過度の眠気(EDS)のみの群より抑うつ症状が重度だったとの報告もあり、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の存在がうつ病の症状を一層悪化させる可能性があります。

双方向の因果関係

近年の大規模疫学データから、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)とうつ病にはお互いの発症リスクを高め合う双方向の関連があることが示唆されています。ある64,000人規模の縦断研究では、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者は同年代の非閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)者に比べて将来的にうつ病を発症するリスクが約2.5倍高いという結果でした。逆に先にうつ病であった人は、その後閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を発症するリスクが約2.3倍高かったと報告されています。このように、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)がうつ病を招き、うつ病が閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を招くという悪循環の可能性が示唆されます。共通の危険因子(肥満や生活習慣、遺伝素因など)もありますが、両疾患に共通する生物学的機序(慢性炎症、ストレスホルモン変調、神経伝達物質系の変化など)が背景にあり、相互に影響し合っていると考えられています。

5. 睡眠検査

問診で閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)が疑われる場合には、睡眠検査に進みます。閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の確定診断には、終夜睡眠ポリグラフ(PSG:polysomnography)検査がゴールドスタンダード(標準検査)です。終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査では睡眠中の脳波・眼球運動・筋電図を記録して睡眠段階を測定するとともに、呼吸気流、胸腹部の呼吸運動、血中酸素飽和度、心拍数、いびき音、睡眠体位などを総合的にモニタリングします。終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査により、一晩の無呼吸・低呼吸の発生回数を表す、無呼吸低呼吸指数(AHI:apnea hypopnea index)を測定し、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の重症度を評価します。また脳波を同時記録することで無呼吸に伴う覚醒を表す、呼吸努力関連覚醒(RERA:respiratory effort-related arousal)も測定できるため、眠気や症状との関連評価に役立ちます。一方自宅で実施可能な簡易検査も実施されています。簡易検査では自宅で就寝時に簡易モニターを装着して眠ってもらい、終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査における無呼吸低呼吸指数(AHI)に相当する指標(呼吸イベント指数〔REI:respiratory event index〕)を測定します。精度は終夜睡眠ポリグラフ(PSG)に劣るものの、中等度~重度のOSAを検出するには十分と考えられています。

 

6. 診断アルゴリズム

日本の診療ではまず簡易検査を行い、重度が示唆されれば治療開始、軽度~中等度の場合や結果が不明瞭な場合に精密検査の終夜睡眠ポリグラフ(PSG)を行うという流れが一般的です。具体的には、簡易検査でAHI(正確にはREI:respiratory event index)が40以上の場合は精密検査(PSG)を待たず、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)確定と判断し治療開始を検討します。簡易検査でAHIが40未満の場合には、精密検査(PSG)を実施します。精密検査(PSG)の結果、AHIが5未満であれば閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)ではないと判断します。精密検査(PSG)の結果、AHIが20以上の場合、症状の有無にかかわらず積極的な治療が推奨されます。一方、精密検査(PSG)でAHIが5以上20未満の場合、症状の有無や合併症リスクを考慮して治療介入するか経過観察とするか判断します。また、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と診断された患者で明らかな上気道病変(鼻中隔湾曲や扁桃肥大など)や顎顔面形態異常が原因として疑われる場合には、耳鼻科や歯科口腔外科と連携し外科的治療を検討する場合もあります。

7. 治療

生活習慣の改善

体重管理(減量)

肥満は閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の最大の危険因子であり、減量によって劇的に改善する可能性があります。肥満度(BMI)が高い患者には、食事・運動療法による減量を強く推奨します。減量手術により体重が大幅減少すればOSAが根治するケースもあります。

睡眠衛生の改善

飲酒は就寝前に控えるべきです。アルコールは筋弛緩作用で無呼吸を悪化させ、深酒後に無呼吸エピソードが増えることが知られます。ベンゾジアゼピン系睡眠薬も同様で、筋弛緩作用があるため閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者には慎重投与が求められます。仰向けで眠ると無呼吸が増える患者では体位の工夫が有用です。側臥位(横向き)で寝るよう枕や抱き枕を使ったり、就寝時に背中にテニスボールを縫い付けたシャツを着て仰向け寝を防ぐ「体位療法」も古典的ですが一定の効果があります。これら体位療法は、睡眠中ずっと仰向けにならないようにすることで軽症~中等度の体位依存性の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)(仰向け時のみ無呼吸が悪化するタイプ)に有効です。

CPAP療法

CPAP(continuous positive airway pressure)は、睡眠時に鼻(または口鼻)マスクを装着して気道に空気を送り込み、一定の陽圧で気道を内側から支える治療法です。1980年代に登場して以来、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の標準的治療法として確立しました。CPAP装置は気道内に風を送り込むことで、眠って筋緊張が落ちても気道が潰れないように保つ仕組みです。中等症~重症閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)に対する第一選択治療であり、無呼吸低呼吸指数(AHI)や低酸素血症の改善効果は群を抜いています。適切に使用すれば無呼吸低呼吸をほぼ完全に消失させることが可能で、日中の眠気など自覚症状は多くの患者で著明に改善します。

 

マウスピース(OA)療法

口腔内装置(OA:oral appliance)を用いた治療法です。下顎を前方へずらす特殊なマウスピースを就寝時に装着する治療法です。具体的には、上下の歯にフィットするマウスピースで下顎を通常より前方に固定します。下顎が前に出ると舌も前方に引かれ、咽頭腔が拡大して空気の通りが良くなります。マウスピース(OA)療法は主に軽症~中等症閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)や、CPAPがどうしても使えない患者に対して行われます。マウスピース作成が必要なため、歯科と連携して適切な装置作製・調整を行うことが重要です。

無呼吸ラボ

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