大人のASD(自閉スペクトラム症)を持つ女性、男性それぞれの特徴とは?生きづらさを感じる場面や対策方法を解説
ASD(自閉スペクトラム症)は、生まれつきの脳の働き方の違いによって、人とのコミュニケーションが苦手、物事に強いこだわりを持つといった特徴を持つ発達障害の一種です。
子どもによくみられるものと思われがちですが、大人の女性・男性にも見られることがあります。
この記事では、大人のASDを持つ女性・男性のそれぞれの特徴について解説します。
生きづらさを感じる場面やASDかも?と思ったときの対処方法などもまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。
ASD(自閉スペクトラム症)とは
ASD(自閉スペクトラム症)とは、主に社会的なコミュニケーションや対人関係に困難が生じる発達障害の一つです。
例え話や冗談が通じないことが多く、表情や視線、身振りなどから相手の考えていることを読み取る能力が低い傾向にあります。
また特定の物事への強いこだわりや、感覚の過敏さといった特徴も見られます。
このような特徴は先天的なもので、親の子育てや家庭環境が原因で起こるわけではありません。
大人のASD(自閉スペクトラム症)を持つ女性の特徴
大人のASD(自閉スペクトラム症)を持つ女性の特徴として、以下の5つが挙げられます。
- 雑談が苦手で受け身な態度を取りやすい
- 表情が動きにくい
- こだわりが強い
- マルチタスクが苦手
- 二次障害や併存症が多い
ここでは上記5つの特徴についてそれぞれ解説します。
雑談が苦手で受け身な態度を取りやすい
ASDの女性は、会話の中でも特に雑談のような目的のはっきりしない会話が苦手な傾向があります。
相手の感情や意図を読み取るのが難しく、どう返答すればよいか分からず黙ってしまったり、受け身な態度になりがちです。
また自分の話ばかりをしてしまう、またはまったく話さなくなるといった両極端な傾向も見られます。
これにより、コミュニケーションに消極的な印象を持たれることもありますが、本人は精一杯対応していることも多いです。
表情が動きにくい
ASDの女性は、自分の感情を表情で表すことが苦手な場合があります。
嬉しい・悲しいといった気持ちがあっても、それが表情に表れにくく、周囲からは「無表情」や「冷たそう」と誤解されることもあるのです。
また相手の表情から感情を読み取ることも難しいため、人間関係でのすれ違いが起こる原因にもなります。
こだわりが強い
ASDの女性は、特定の物事に強いこだわりを持つことがあります。
例えば毎日のスケジュールや生活習慣、趣味などにおいて、決まったやり方でないと落ち着かないという傾向があるのです。
また特定の分野に強い興味を持ち、深く知識を追求することもあります。
こうしたこだわりは周囲からは「几帳面」や「熱中しやすい」と見られることがありますが、柔軟な対応を求められる場面ではストレスを感じやすい面もあります。
マルチタスクが苦手
ASDを持つ女性は、一度に複数の作業をこなすマルチタスクが苦手な傾向があります。
情報を同時に処理したり、優先順位を素早く判断することに難しさを感じるため、複雑な業務や忙しい場面では混乱してしまうことがあるのです。
物事を一つずつ丁寧に取り組む方が得意で、急な予定変更や予想外の出来事には対応しにくい場合があります。
こうした傾向は、職場や家庭での負担感につながることもあるため、周囲の理解と配慮が重要です。
二次障害や併存症が多い
ASDの女性は、周囲に適応しようとする中で慢性的なストレスや生きづらさを抱えやすく、その結果、うつ病や不安障害などの二次障害を発症することがあります。
ASDの方はこうした二次的な精神疾患が併存するケースが多く、特性への理解とあわせて、精神的なケアや安心できる環境の整備がとても重要です。
早期に気づき、支援につなげることが回復の鍵となります。
大人のASD(自閉スペクトラム症)を持つ男性の特徴
大人のASD(自閉スペクトラム症)を持つ男性の特徴として、以下が挙げられます。
- 仲間関係を構築しにくい
- 言葉のニュアンスや冗談が理解しにくい
- こだわりが強い
ここでは上記3つの特徴についてそれぞれ解説します。
仲間関係を構築しにくい
ASDを持つ男性は、相手の気持ちや立場を想像することが苦手で、友人関係や仲間づくりに困難を抱えることがあります。
共感的な反応が難しく、自分の興味に基づいた会話ばかりしてしまい、相手との会話のキャッチボールがうまくいかないこともあります。
そのため孤立しがちになったり、誤解を受けて関係がこじれることも少なくありません。
本人は悪気がなくても、他者との距離感を調整するのが難しいため、仲間との関係を築くには周囲の理解とサポートが必要です。
言葉のニュアンスや冗談が理解しにくい
ASDを持つ男性は言葉を文字通りに受け取りやすく、例え話や冗談、比喩表現を正しく理解するのが難しい傾向があります。
そのため会話の中で冗談が通じなかったり、言葉の裏にある感情や意図をくみ取ることができず、相手を困惑させたり、自分自身が混乱したりすることがあります。
また社交的なやり取りの中で暗黙のルールを見落とすことも多く、コミュニケーションでのトラブルが起きやすいです。
こだわりが強い
ASDを持つ男性には、特定の物事に対して強いこだわりを持つ傾向があります。
例えば毎日同じルーティンで行動することに安心感を覚えたり、特定の趣味や分野に強い興味を持ち、専門家のような知識を持つこともあります。
このようなこだわりによって、予期せぬ変化に柔軟に対応できなくなることもあるため注意が必要です。
また周囲の人がそのこだわりを理解できない場合、誤解や摩擦を生むこともあります。
本人の強みとして活かすには、環境の工夫やサポートが大切です。
大人のASD(自閉スペクトラム症)を持つ女性・男性が生きづらさを感じる場面
大人のASD(自閉スペクトラム症)を持つ女性・男性が生きづらさを感じる場面として、以下が挙げられます。
- 会話の輪に入れない
- 仕事が長続きしない
- 仕事や家事をうまくこなせない
- 感覚過敏
ここでは上記4つの場面についてそれぞれ解説します。
会話の輪に入れない
ASDを持つ人は会話の流れや空気を読むのが苦手なため、雑談やグループトークの輪に自然に入ることができず、孤立感を感じやすくなります。
話題が急に変わったり、相手の表情や声のトーンで感情を読み取る必要があったりするような場面では、戸惑いや緊張を覚えやすく、話に入れないまま終わってしまうこともあります。
また自分の興味のある話題に偏ってしまう傾向があり、会話がかみ合わないことも少なくありません。
こうした経験が重なると、人との関わり自体が苦痛になり、さらに孤立してしまうことがあります。
仕事が長続きしない
ASDを持つ人の中には、職場での人間関係や環境の変化にうまく対応できず、仕事が長続きしないという悩みを抱える人が多くいます。
上司や同僚とのやり取りにストレスを感じたり、曖昧な指示に戸惑ったりすることで、疲弊してしまうケースがあるのです。
また興味のある分野では高い集中力を発揮できる一方で、向いていない業務ではパフォーマンスが著しく低下することもあります。
自分に合った環境を見つけられれば安定した就労も可能ですが、それまでに多くの挫折を経験している人も少なくありません。
仕事や家事をうまくこなせない
ASDを持つ人はタスクの優先順位をつけたり、時間配分を調整したりするのが苦手な傾向があります。
そのため仕事や家事といった日常の活動をうまくこなせず、自己否定感や無力感を抱くことがあります。
例えば家の掃除や洗濯といった複数の作業を同時にこなす必要がある場面では混乱しやすく、結果として中途半端に終わってしまうこともあるのです。
また細かな変化に気づきすぎたり、完璧を求めすぎたりするあまり、作業に時間がかかりすぎることもあります。
感覚過敏
ASDを持つ人は音や光、匂い、触感などに対して極端に敏感な『感覚過敏』の傾向が見られることがあります。
例えば照明の強い光が苦手、香水や洗剤の匂いで気分が悪くなる、服のタグがチクチクして耐えられないなど、些細な刺激でも大きなストレスになります。
このような感覚過敏は周囲には理解されにくく、「わがまま」や「神経質」と誤解されることもあり、本人にとっては非常につらい状況です。
快適な生活環境を整えるためには、本人の感覚特性に対する配慮が重要です。
大人のASD(自閉スペクトラム症)を持つ女性・男性ができる対策方法
大人のASD(自閉スペクトラム症)を持つ女性・男性ができる対策方法として、以下が挙げられます。
- 傾聴力を鍛える
- 自分の思考の癖を理解する
- 無理なく過ごせる対人関係を築く
- 特性に合った仕事を選ぶ
- 家事や育児のやり方を見直す
ここでは上記5つの対策方法についてそれぞれ解説します。
傾聴力を鍛える
ASDを持つ人にとって、相手の話をじっくり聞く『傾聴』は重要なスキルです。
会話の中で自分の興味に意識が向きやすく、相手の話を途中で遮ってしまうこともありますが、相手の言葉に集中することで、コミュニケーションがスムーズになります。
傾聴を意識することで、会話の意図や流れをつかみやすくなり、誤解を減らすことにもつながります。
最初は難しく感じるかもしれませんが、「相手の話を最後まで聞く」「うなずきや相づちを意識する」など、小さな習慣から始めてみると効果的です。
自分の思考の癖を理解する
ASDを持つ人は、自分の考え方に独自のパターンやこだわりがある場合が多く、それが生活のしづらさにつながることもあります。
例えば「一度決めたことは変えてはいけない」「完璧でなければならない」といった極端な思考の癖が、柔軟な対応を難しくしてしまうことがあります。
自分の思考の癖に気づき、対処法を用意しておきましょう。
認知行動療法やカウンセリングを通じて、思考を客観的に見つめ直す練習も効果的です。
無理なく過ごせる対人関係を築く
ASDを持つ人にとって、人付き合いは大きな負担になることがあります。
だからこそ、自分が無理なく接することのできる相手と付き合うことが大切です。
信頼できる少人数の人との関係を深めたり、同じ価値観を持つ人と交流することで、安心して過ごせる時間が増えていきます。
また自分の特性を理解してくれる相手と出会うことで、過剰な気遣いや緊張をせずに自然な自分でいられるようになるでしょう。
無理に多くの人と付き合おうとせず、自分の心地よさを大切にした人間関係を築くことが、生きやすさにつながります。
特性に合った仕事を選ぶ
ASDを持つ人にとって、自分の特性に合った仕事を選ぶことは非常に重要です。
例えば人と関わる機会が少ない仕事や一人で黙々と作業できる環境が合っている人もいれば、得意な分野に特化して能力を発揮できる専門職が向いている人もいます。
また明確なルールや手順が決まっている仕事は混乱が少なく、安心して取り組みやすい傾向があります。
自分の得意・不得意を整理し、無理なく続けられる職場を選ぶことで、ストレスを抑えられるでしょう。
家事や育児のやり方を見直す
ASDを持つ人にとって、家事や育児は予測不能なことが多く、混乱を招いたり疲労をため込んだりしてしまいやすいです。
だからこそ、自分に合ったやり方で無理なくこなす工夫が大切です。
例えばタイマーやチェックリストを使ってタスクを「見える化」する、1日の予定をルーティン化する、苦手な作業は家族と分担するなど、工夫次第で負担を軽減できます。
大人のASD(自閉スペクトラム症)かも?と思ったら
大人のASD(自閉スペクトラム症)かも?と思ったときの対処法は以下の3つです。
- 精神科・心療内科を受診する
- 発達障害者支援センターに相談する
- 周囲の人からサポートを受ける
ここでは上記3つの対処法についてそれぞれ解説します。
精神科・心療内科を受診する
ASDの疑いがある場合は、まずは精神科・心療内科を受診するのがおすすめです。
カウンセリングや心理検査を通じて、自分の特性や状態を客観的に把握できます。
さらに正式に診断がつくことで、必要な支援制度や合理的配慮が受けられるようになる場合もあります。
また診断により二次障害への対処も進めやすくなり、生活の質の向上につながるでしょう。
発達障害者支援センターに相談する
発達障害に関する相談先として、発達障害者支援センターの利用も有効です。
全国各地に設置されており、発達特性に関する不安や困りごとについて、専門スタッフに相談できます。
診断を受けた後の生活支援や、就労支援、家族への助言など、幅広いサービスを無料で受けられるのが特徴です。
診断を迷っている段階でも利用可能なため、「誰かに話を聞いてほしい」「どう動けばいいか分からない」というときの初めの一歩としておすすめです。
周囲の人からサポートを受ける
ASDの傾向があると分かったときは一人で抱え込まず、信頼できる家族や友人、職場の上司などに話してサポートを受けることが大切です。
特性を理解してもらうことで誤解や衝突が減り、安心して日常生活を送れるようになります。
また自分では気づかなかった困りごとや強みを、他者の視点から教えてもらえることもあります。
必要に応じて周囲の人と一緒に相談機関へ行くなど、協力を得ながら対処していきましょう。
まとめ
ASD(自閉スペクトラム症)の大人の女性にみられる特徴として、雑談が苦手、表情が動きにくい、こだわりが強い、マルチタスクが苦手、二次障害や併存症が多いなどが挙げられます。
一方、男性では、仲間関係を構築しにくい、言葉のニュアンスや冗談が理解しにくい、こだわりが強いなどの特徴がみられます。
いずれもコミュニケーションや人付き合いで生きづらさを感じることが多いですが、特性を正しく理解し、適切なサポートを受ければ快適に過ごすことが可能です。
ASDの疑いがある場合は、まずは精神科・心療内科の受診や発達障害者支援センターへの相談から始めてみましょう。
『金山こころとねむりのクリニック』では、ASDの二次障害・併存症に多い精神疾患の治療にも対応しています。
臨床心理士、公認心理師による丁寧なカウンセリングを行っているため、生きづらさを感じている方はぜひ当院までお気軽にご相談ください。